189.第伍話 お茶を飲む座順東家 ポロシャツ南家 スキン安村西家 ギザギザベルト北家 財前香織 東1局はスキン安村の白ドラ1から始まった。2000点でポロシャツの親は流される。放銃したのはカオリだ。《ま、切るべき牌を切ったに過ぎませんし。気にしても仕方がないでしょう》(そう思う。こんなのはホントどうでもいい) その程度では動じないカオリ。その後満貫をスキン安村からアガリ返してトップ目になる。事件が起きたのは南1局のポロシャツの親番だった。ゴクリ 配牌を取るなり2巡目からお茶を飲むポロシャツ。それを見たカオリは察知していた。(これは、親に高くて鳴ける手が来たな)と。 ドラは二萬なので捨て牌の情報も加味すると『役牌チャンタ三色ドラ1』か『純チャン三色ドラ1』が本線だろう。とにかく、やばい。 喉を潤したくなるのには理由がある。人間は緊張している状態。つまりストレスを感じている状態になるとサラサラした唾液の分泌が止まるようになっている。そうなると飲み物を飲みたくなるのだ。麻雀に集中している時なら特にこの傾向がある。無意識に飲んでいるのだから本能に忠実な動きであるはずだ。つまり、序盤から出るであろう牌が急所牌になっている高打点手が来ており、それが出て来ないからストレスになっている。そう読めるのだ。 カオリはそこに注意しながら手を進めた。チャンタ系には鳴かれないようにと。そして7巡目。「ロン!」ポロシャツ手牌一二三七八九①①⑦⑨789 ⑧ロン「18000」 放銃したのはギザギザベルトだった。(やっぱりね)とカオリは思った。 所作ひとつ。飲み物ひとつから相手の手牌構成を予測して警戒できるカオリにはダマテンだって意味がない。ギザギザベルトは最後まであがいたが無意味な失点をしないカオリはそのまま二着で四回戦を突破した。「「ありがとうございました!」」 財前カオリプロ。師団名人戦本戦行き決定!
188.第四話 ルール無用 ついに予選四回戦。これに勝てば本戦トーナメントに参加となる。 カオリの四回戦の相手は全員知らない人だった。 正装で来るように定められている大会なのに何故か緑のポロシャツで来てる変なおじさんとベルトにギザギザのトゲのような金具が無数についてるおばさん。 それと、それら2人と知り合いと思われるスキンヘッドの男だった。「安村プロ。いつからスキンヘッドに?」「元々薄かったからね。どうせなら、と師匠にあやかってみた」「あー…… きみの師匠って工藤プロだったっけ。強いよね、あの人も」 などと3人はカオリの知らないことを話していた。混ざって楽しく談笑しようなどという気分でもなかったのでカオリは自販機でコーヒーを買って時間になるまで卓から少し離れた飲食スペースで心を落ち着けて過ごす事にした。《仲のいい3人のようですね。アウェー戦になる可能性がありそうです。まだ時間はありますし、挨拶でもして溶け込んでおきますか?》(いい、いい、そういうのは。アウェー上等だし。それに試合が始まれば結局誰しも自己都合でしょ。まあ、二着に誰を選ぶとかはあるかもだけど…… その程度のことは気にしない事にするわ。それに……)《それに?》(正装でと言われてるのにポロシャツだったり、ロック歌手みたいなベルトしてたり…… ああいう人達とはあまり関わり合いたくないかな。ルールは守る人がいい)《まあ、それもそうですね》 10分ほどして予選会場Bの方から四回戦に残ったプロたちが移動してきた。少人数になったので会場Bを空けて1箇所でまとめたのだ。『はい、それでは全卓プレイヤーが揃ったと思いますので予選四回戦。最終半荘始めて下さい!』「「よろしくお願
187.第三話 決断力のいる一打 一方、カオリは危なげなくアガリを重ねていた。 今日のカオリは集中力が違う。気合いが違う。『絶対に負けない!』という甲子園球児にも似た覚悟がカオリから感じられた。トップの座を一切譲ることなく徐々に徐々にリードを蓄えていく。 中でも秀逸だったのはこの手。南3局6巡目親番カオリ手牌 切り番二三三四四伍六③④⑤3467 ドラ①テンパイ時即リーチを打つにはソーズのリャンメンが良さそうなのでソーズに手をかけるのは難しい手に見えるがカオリは場を見てよく読んでいた。(この局はマンズがアガリやすい。最終形はマンズになるように舵取りして行こう。三色は無視、ソーズが引けるとしたら下よりも上…… そんな場になっていることを加味したら……)打3 理屈はわかる。だが、なかなか切れる3索ではない。裏目を引いた時にかなり痛い。決断力のいる一打だ。次巡以降ツモ二打4ツモ6打7「リーチ」ツモ七「ツモ!(一発)」二二三三四四伍六③④⑤66 七ツモ裏ドラをめくるとそこには三があった。「8000オール(メンタンピンイッパツツモイーペーウラウラ)」 この一撃で突き抜ける。普通のアガリに見えるが実際にこの手をもらって親倍満に仕上げるこ
186.第二話 大接戦の二着争い 福島弥生(ふくしまやよい)は親戚の影響で麻雀を覚えた。従姉妹の福島社(ふくしまやしろ)はプロ級の腕前で所作ひとつ呼吸ひとつから相手の手の内を見抜いていくメンタリストのような女だった。彼女の魔法のようなプレーに影響を受けて弥生は麻雀の魅力に取り憑かれた。(ヤシロちゃん。今日仕事終わったら見に来てくれるって言ってたけどもう着いたかな) ケータイを確認すると“そろそろ着くよ。生き延びてる?”とメッセージが届いてた。“今から三回戦、相手がタイトルホルダーだからきついかも”“すぐ応援に駆けつけるからね!”(……とりあえず到着前に敗退してなくて良かった。私の強くなった所。見に来てね!) プロの対局は観戦自由だ。見られて恥ずかしい麻雀を打つなど言語道断であるのだから後ろ見自由というのが師団の方針であった。むしろ見られて、ファンを獲得していってこそプロプレーヤーというものである。『それでは三回戦、始めて下さい』「「よろしくお願いします!」」────── マナミとヤヨイの卓のトップは2人のどちらでもなく諏訪翔太プロの圧倒的な勝利だった。プロ6年目の前年度新人王戦決勝まで行ったあの諏訪プロだ。「ツモ!」「ロン」「ツモ」「ツモ」「ツモ!」とまあ何回言われたか分からない。何点叩いても関係ないトップ二着の通過するトーナメントで諏訪翔太は超ダントツトップとなる(意味はない)しかし、それで集中が切れたりはしないのがトーナメントだ。それはそう。二着に残れば同じ
185.ここまでのあらすじ 様々な仲間からの支援を受けて夢実現へと進む麻雀女子たち。カオリたちはどんどん成長する。そして今、初タイトル獲得を目指してカオリが師団名人戦に挑戦する――【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。女子大生プロ雀士。所属リーグはC2。女流リーグはA所属。読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。その右手には神の力を宿す。日本プロ麻雀師団順位戦C3リーグ繰り上げ1位財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。妹と一緒に女子大生プロ雀士となる。神に見守られている。C2リーグ所属。女流リーグA。第36期新人王戦3位第5期女流Bリーグ優勝第30回雀聖位戦優勝佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。誘導するような罠作りに長けている。麻雀教室の講師をしつつ大学に通う、アンたちの頼れるリーダー。第1回UUCコーヒー杯優勝第30回雀聖位戦準優勝竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属していた香織の学校の後輩。佐藤優の相棒で、一緒に麻雀教室をやるという夢をついに叶えた。駅前喫茶店『グリーン』で給仕の仕事もする。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『
184.第十伍話 心の中まで詠む 今日はついに師団名人戦プロ予選。財前姉妹はそこそこの実績こそあるが予選一回戦からの出場だ。まあ、普通はそういうものでありシード権のある新人なんてそうはいない。新人でありながら本戦からの出場になっているミサトは特別凄いのである。「じゃあ、お互い頑張ろうね」「一回戦からコケないようにね!」「マナミこそ。つまらないミスしないでよ」 そう言うと2人はお互いの拳と拳をコン! と突き当てて一回戦の卓へと移動した。(麻雀プロを1年以上やってカオリにもこういう体育会系のノリがやっとわかってきた。プロ雀士には体育会系が割といる)一回戦 対面の人は後ろが通路なのでちょっとだけギャラリーを背負っていた。見やすい位置だからというだけの理由だろうが、その対面さんはプロ1年生のようで見られることに慣れていないようだった。そして3副露して手牌を上下整えるとピシッと手前に寄せる。そこまでは普通だけど、その寄せた手牌を卓の手前位置から一向に戻そうとしない。それを見て私はピンとくる。(ははあ、対面さんはカン二萬かペン三萬待ちね)と。《どうしてそうなるんですか?》(これはね、ハートが弱い人にしか分からない心理よ。見られてる時にね愚形だと恥ずかしいの。だからさっき上下を入れ替えたのは整えたんじゃなくてむしろ逆にしたんだと思う。カン二萬待ちかペン三萬待ちだとしてそれって牌を逆さまにして卓の端に付けちゃえば段差があるからペンチャンかカンチャンかシャボかリャンメンか分からないの。つまり、後ろで見てる人がいるから3副露もして愚形ってのが見られたくないんだよ)《はあ、なるほど。その読み当たってそうですね。捨て牌的にも萬子の下がありそうな感じですし。心の中まで読んだわけですか》(絶対この読みで当たりだと思う) そして、その読みがあるのでカオリは手牌を二二三のままキープしていた。するとツモ二!